アラスカは本当にすごかったのか?日かまアラスカアンバサダー座談会

出席者
(株)河内屋 代表取締役社長 河内肇氏
(株)スギヨ 取締役内部監査室長 守義信氏
生地蒲鉾(有) 代表取締役 中陳新平氏
アメリカンシーフーズジャパン 社長 矢寺秀介氏
日本かまぼこ協会 専務理事 松本洋一氏
アラスカシーフードマーケティング協会 トレードレプレゼンタティブ 家形晶子氏
司会 (株)水産経済新聞社 代表取締役社長 浮須まさみ
アラスカのスケソウダラ、さらなる認知向上を
――アラスカ・ダッチハーバー視察の率直な感想を。
守室長 訪問は3回目だったが、本当に久しぶりだった。昔と比べて工場の機械や設備が非常に進化しており驚いた。最新のテクノロジーを駆使した効率化が進み、最先端の現場になっていることを実感した。
橋爪部長 10年ぶりの訪問だったが、時代背景に素早く即応していると感じた。近代化が進んだだけでなく、「安全・安心」や「持続可能な資源管理」への意識が以前にも増して強くなっていた。
河内社長

私は今回が初めてのダッチハーバー訪問だった。カマボコ業界に入ると、まず原材料を勉強するが、冷凍スリ身といえば必ずダッチハーバーの名前が出てくる。業界に入って33年になるが、これまで業界紙の紙面でしか見たことがなかった「フィレー」や「アラスカ・ベーリング海」という言葉が、目の前に現実の光景として現れた時は本当に感激した。
中陳社長 とにかく遠かった。北陸から乗り継ぎを繰り返し、時差も約17時間。アンカレジからダッチハーバーまでのフライトもひと苦労だった。しかし無事に到着し、日本のカマボコ産業を支える工場がこのような遠隔地で稼働している現場を目の当たりにした時は、心から感動した。
最先端テクノロジーと 「熟練の技」の融合
――現地でスケソウの加工を行うさまざまな施設を視察した中で、品質へのこだわりについて共通して感じた部分はありましたか。
河内社長 施設や船そのものには歴史を感じる部分もあったが、内部に入ると最新の機器に更新されていた。また連邦政府から認可を受けた組織から派遣されているオブザーバー(監視員)が張り付いて混獲や漁業規制の順守を確認する厳しいチェック体制を敷いている。トレーサビリティの高さと持続可能な管理体制が徹底されていることを肌で感じた。
守室長
守スギヨ内部監査室長訪問各社で説明を受けたが、アラスカでスケソウに関わる方々の強い使命感と気概を感じた。アラスカも人件費が高騰しており、省力化は避けて通れない課題。現地工場では人工知能(AI)やモノのインターネット(IoT)を活用した品質・温度管理の自動化が進んでいたが、最終的には熟練のテクニシャンが目視で微調整・確認を行っている。最先端技術と職人の経験が見事に融合している現場だった。
中陳社長 まずベーリング海の広大な海に豊富なスケソウ資源があるという、うらやましい環境がいちばん印象に残った。これは厳格な資源管理を徹底してきた結果でもある。最新鋭の設備はもちろんだが、最終的には必ず人が確認して品質を担保している点も印象的だった。
橋爪部長 米国のスリ身に期待するのは、やはり品質面も含めた安定性と資源量。「毎年およそ10万トン入っていたものが、例えば突然来年から2万トンになる」と言われると、日本のカマボコ業界は立ち行かなくなる。そういう意味でも、今回の視察でアラスカスケソウの安定性に対する信頼がますます深まった。
「未来へつなぐ」厳格な資源管理体制
――アラスカにおける資源管理はどうみえましたか。
橋爪部長 オブザーバーが立ち会っており、個人的には「ここまで厳しくやらなければいけないのか」とも思ったが、だからこそ徹底的に管理されているのだと実感した。先ほどの安定性にもつながるが、将来にわたって信用できるスリ身を供給してくれていると感じる。
中陳社長

漁獲枠が守られるうそがつけない仕組みになっている。混獲のチェックも徹底されており、魚群をしっかり見極めて漁獲している。本当に資源管理が行き届いていると実感した。
守室長 とにかくオブザーバーが付きっきりで混獲をチェックし、グラム単位で混獲の重量を計算・管理していると聞き、統計データの信頼性の高さも確認できた。アラスカの資源管理は全魚種を対象としているが、特にサーモンなどの混獲には敏感。よい魚が獲れても混獲が多いとほかの漁場に移らざるを得ないという苦労も感じ取れた。
河内社長 アラスカの大きな産業としては天然ガスや石油があるが、それと同じくらい水産業が重要視されている。水産業がなくなると大変な事態になる。獲り過ぎて資源が枯渇し産業が成り立たなくなれば、そこで働く人やその家族の生活が立ち行かなくなる。関係者全員が「資源は有限である」ということを理解しており、アラスカ州としても収入や税収の面で大切にしている産業だからこそ、「持続可能(サステイナブル)」という言葉が根付いているのだろう。アラスカはタラ、サーモン、ハリバットというように対象魚種が明確だ。資源も海の栄養も豊富で、大きくなる魚はとことん大きくなる。生き物の循環の力強さを感じた。産業そのものを大事にするその根底には、「アラスカ」ブランドに対する誇りがあると感じた。
なぜ「アラスカ産スリ身」なのか
――ほかのスリ身産地との決定的な違いはどこにあると考えますか。
守室長 南方系スリ身の製造技術も、もとはアラスカで開発し進化し続けてきた米国アラスカ産スリ身の技術がベースとなっている。技術的系譜の面でもアラスカ産が先駆けといえる。
中陳社長 当社ではほぼ米国産スリ身を使用しており、そのほかの産地については詳しくないためこの問いに関しては回答を避けさせていただきたい。
橋爪部長 米国産スリ身はわれわれが思い描いている商品を作りやすく、安定もしているので非常に相性がよい原料。
家形氏 今回、日かまさまの協力を得て、アラスカの視察が産地への学びを深め、日本のカマボコ業界のさらなる発展につながれば、と企画した。もちろんスリ身の産地の多様性は大事。その中でアラスカスケソウスリ身を再評価、再定義をしていただきたかった。今回の視察プログラムが関係者から高い評価を得られて大変うれしく思う。
河内社長 現地を見たことで、安定供給を支える根底には厳格な資源管理があることを再確認できた。また、資源管理とは少し話がそれるが、これまで東南アジアでもスリ身の製造現場は見てきた。アラスカではフィレーやスリ身のラインが原料搬入から途切れることなく動き続けており、その規模の違いにもアラスカの「すごさ」を感じた。
――アラスカのもつブランド力を、自社商品や業界全体の活性化にどうつなげていきますか。
橋爪部長

ねり製品の原料にアラスカ産のスリ身を使うよさが、消費者にはまだ十分に認知されていない。タラコやサーモンなど、消費者がそのまま手に取って食べるものは比較的「アラスカ産」の認知が進んでいる気がする。スリ身についての認知が進めば、業界全体としても活発化していくのではないか。
中陳社長 橋爪さんのおっしゃる通りで、日本における認知度は高くない。スリ身にも等級があるが、それを知っている日本人が何%いるだろうか。高品質なスリ身を使っていることをPRしても伝わりにくいもどかしさがある。肉であれば、消費者も「A5ランク」などの規格を知っている。アラスカでは高品質なスリ身を作り、持続可能な取り組みを行っている。そのPRが徐々に浸透していくことに期待している。自社でも取り組むが、一企業の力では限界があるため、ぜひ業界全体でも取り組んでいただきたい。
守室長 やはり「安定性」と「厳格な資源管理」がなされている。アラスカの豊かな自然や加工工程などをビジュアルや映像で分かりやすく提示できれば、消費者にも理解してもらいやすくなる。そうした素材があれば、メーカー側も商品を宣伝しやすくなる。
河内社長 アラスカは、日本における北海道のように「空気がきれいで魚もおいしい」というよいイメージが世界に定着している。その期待を裏切らない品質と資源がアラスカにはある。カマボコ業界としては、使用している原材料の魅力を継続してお客さまに伝えていく必要がある。当社ではホームページで発信しているが、帰国直後の興奮冷めやらぬ勢いで、原材料の説明文を思い切って書き換えた。熱が入りすぎて長文になってしまったが、やはりしっかり書いておくべきだと感じている。
橋爪部長 アラスカシーフードのマークを集めて応募するプレゼントキャンペーンなどを実施してもらえるとうれしい。そうすれば、メーカー側も商品パッケージにマークを入れやすくなると思うし、消費者も楽しく参加でき、アラスカ産の認知にもつながると思う。
家形氏

フライトキャンセルなどのトラブルを乗り越え皆さんがダッチハーバーにやっと到着されたその小さなチャーター機の復路フライトで、40万人超えのチャンネル登録者がいる大人気のユーチューバー「魚屋の森さん」が撮影を終えウナラスカ島をたった。今回は森さんが「おいしいねり製品の原料の魚に会いに行く旅」という企画で、天然でおいしく、サステイナブルなアラスカのスケソウが冷凍スリ身になるまでの工程やダッチハーバーでスケソウに関わる人々の情熱を紹介する動画がすでに公開され、高評価を得ている。それだけではなく、その冷凍スリ身が日本に届き、アラスカシーフードロゴの表示されたおいしいカニカマになっていく過程とカニカマの魅力を伝える動画も公開中。これからも日本のカマボコ業界の皆さんと一緒に日本の食卓からアラスカ産スケソウスリ身のおいしいカマボコをなくさないための発信を続けていきたい。
ねり業界が目指す方向性
――アラスカ側への期待や、ねり製品業界全体が目指すべき方向性について。
松本専務

今回、4人の皆さまに現地視察を行っていただき、現地側も快く受け入れてさまざまな現場を見せてくださったことに心から感謝している。協会として課題に感じているのは、ねり製品が魚からできていることすら知らない子供たちが多すぎること。ねり製品は魚から作られており、魚由来のタンパク質が体によいということをもっと発信していきたいと考えている。「霞が関見学デー」や11月(14日、15日)に横浜で開催される「さかな文化祭」などにも出展するが、子供たちに直接伝えられる機会を大切にしたい。今後は栄養士会を通じた取り組みも進めていく。また、先ほど話があったように、スリ身には規格があり、魚種や産地ごとに特徴があることが消費者に認知されていない。伝え方をより工夫していく必要がある。以前、協会主催のブロック大会で専門家にフィッシュプロテインについて講演していただいた際、「ねり製品業界はアピールの仕方が下手だ。『もっとガツガツいかないと伝わらない』」と厳しい指摘を受け、大きなヒントを得た。そのくらい強くアピールしていかなければ伝わらない。
矢寺社長

本当におっしゃる通り。米国にもさまざまな業界団体があるが、資金力も豊富で非常に積極的にアピールを進めているし、見習うべき点が多くある。アラスカのベーリング海・アリューシャン列島(BSAI)海域における底魚類の漁獲枠は合計で約200万トンあり、そのうちスケソウが7割弱の約130万トンを占めている。安定供給できる資源という観点において、アラスカのスケソウは圧倒的な規模を誇る。そのうちスリ身の生産数量は過去20年間の平均が約20万トン弱で、その約半分の数量が日本に供給されている。日本市場における近年のスリ身需要は22万~23万トンと推定されており、そのうち約10万トンをアラスカ産のスケソウが占めている。アラスカ産スケソウの価値を引き上げていくことが、ねり製品業界をさらに飛躍させるカギになるのではないだろうか。その中で継続性が重要になってくる。海外でもカニカマが親しまれるようになり、欧州や米国を中心にフィレー(切身)の需要も伸びている。しかし、アラスカ産スケソウスリ身の生産量の半分が供給されている以上、主要市場は依然として日本にある。わが社として安定的にスリ身を供給していくという私たちのスタンスは変わらない。
一方で、ねり製品や魚肉ソーセージは「何が入っているか分からない」というネガティブなイメージをもたれやすい傾向がある。それを払拭(しょく)するには、魚種をもっとクローズアップしてもよいと考えている。「スケソウ=おいしい魚」であることを分かりやすくアピールした方が浸透するはず。ロシア産、北海道産、アラスカ産とそれぞれあってよいと思うが、その中でもアラスカ産スケソウを強力にアピールすることで価値が上がり、「このアラスカのロゴマークが付いている商品を食べたい」と思ってもらえるようになるのではないだろうか。
ねり製品の課題は、チクワや揚げ物など、一部の商品で見た目だけでは何が入っているのか消費者に伝わらない点。その結果、価格だけで選んでしまい、食べてみておいしくないと「チクワ=おいしくない」という印象をもたれてしまう。アラスカ産スケソウを使用した製品は品質が違うということを分かりやすく提示すべきであり、その一つが「アラスカシーフード」のロゴマークなのかもしれない。あるいは別の名称で、スケソウをクローズアップした商標登録を取る方法もある。肉でいう「USビーフ」や「オージービーフ」のように、「アラスカスケソウ」といったブランド表記をもっと前面に出した方が消費者にも伝わりやすいのでは。
家形氏 魚のままのスケソウではなく、スケソウスリ身をカマボコの形で食べる意味や価値が必ずあるはず。アラスカのスケソウスリ身だからこそさまざまな特徴があるのだという各魚種にひも付けた認識が広がれば、ねり製品自体の魅力の向上にもつながると思う。
松本専務 近年では栄養指標として「消化可能必須アミノ酸スコア(DIAAS)」という概念が注目されている。一食で一日に必要なタンパク質を効率よく摂取できる高タンパク食品がアピールされているが、スリ身やスケソウ自体が畜肉類よりもDIAASの値が高いというデータが出ている。同じ重量を食べるのであれば、スケソウを食べた方が良質なタンパク質を摂取できることが学術的にも明らかになってきている。こうした科学的根拠に基づいた強みをしっかりPRしていくことが、協会の今後の課題だと考えている。
――今回の視察で得た知見を、今後どのように発信し、生かしていきますか。

河内社長 今後は交流サイト(SNS)やホームページを活用して情報発信を強化していく。日本人には寿司文化が根付いているため、どうしても寿司種になる魚に価値を置きがちだ。しかし、ねり製品の原材料の価値を高めていくことが、最終製品の価値向上にもつながる。地道ではあるが、カマボコ業界全体でそうした発信を継続することが重要だと感じている。全国の各メーカー、そして社員一人ひとりが情報発信を行い、それがつながっていくことで露出がより増え、消費者に伝わっていくと思う。
守室長

魚肉タンパク質は吸収がよく体によい良質なタンパク質であるため、以前アスリート向け食品として展開したことがある。無理なく手軽に摂取できる点をPRしつつ、スリ身原料の製造工程や現地の映像を見せることが非常に効果的だと考えている。
中陳社長 ダッチハーバーでいただいたフレッシュのスケソウフィレーのフリッターが驚くほどおいしく、大きな衝撃を受けた。自社の揚げカマボコの直営店舗でもぜひメニューとして提供したいと考えている。そうすることで、スケソウ本来のおいしさや魅力を直接消費者に伝えられるのではないかと思う。また、当社では地元・黒部市内の小学生の工場見学を受け入れているが、今回の現地視察を経て、アラスカのベーリング海のスリ身を使っていることや背景にある物語を、以前よりも深く子供たちに説明できるようになるはず。
橋爪部長 子供の頃からのイメージの刷り込みや食育は非常に大切。原料を使うユーザー側からも、産地に対してフィードバックを行っていく必要がある。現地を視察したことで、作り手(現地の生産者)もユーザーのことを非常に気かけながら製造していることがよく分かった。


