2026.08.29
アラスカ、ダッチハーバー番外編②〜スタバとマックでドルの現実を考えてみた。
前回の番外編①では、アンカレッジ空港でのお話をお届けしました。思えば、ダッチハーバーという場所は、それほどまでに遠く、未知の世界。無事にたどり着くまでには、天候にも阻まれ、実にいろいろなことがありました。さて今回は打って変わって米国の物価の話です。
このシリーズでも、本編の最終回でも、私は「原料高」「物価高」の話を、これでもかと書いてきました。中東情勢、円安、すり身の高騰…。数字も報道も、頭では分かっているつもりでした。
ただ、正直に申し上げると、どこか腹の底で、実感しきれていない部分もあったのです。「アメリカは物価が高い」と言われても、いったいどれほどのものなのか。せっかく現地に立っているのだから、この目と自分の財布で、確かめてみたい。そう思った私は、いちばん分かりやすい”ものさし”を選ぶことにしました。日本人なら誰もが値段を知っている、スターバックスと、マクドナルドです。
まずは、スターバックス。
7月28日、シアトル・タコマ国際空港での乗り継ぎでのことです。シアトルといえば、スターバックス発祥の地。ここはやはり一杯いただかねば、とレジに並びました。頼んだのは、いつものトールサイズのアメリカーノ。要するに、ただのブラックコーヒーです。

メニューには「5.40ドル」とありました。まあ、そんなものかと。ところが後日、カードの明細を見て、私はあれ?と思いました。引き落とし額、974円。自分が頭で思っていた額と違う。
なぜこうなるのか。レシートを頼りに、その内訳を確認しました。ちなみに買ったときはレシートを全く見ていない笑。
まず、私が頼んだトールのアメリカーノは、本体5.20ドル。ちなみに、メニューに出ていた5.40ドルは、実はひとつ大きい「グランデ」の値段で、アメリカのスタバは、メニューに全サイズを載せず、代表の一つだけ出すことがよくあるのです。そこに税が0.54ドル。合わせて5.74ドル。
ここで日本と決定的に違うのが、アメリカはメニュー価格が「税抜き」表示だということ。日本のように「表示価格=支払う額」ではない。レシートを見ると、Subtotal(小計)5.20ドル、Tax(税)0.54ドルと、きっちり分かれて印字されている。税率にして約10.4%。日本の消費税より、少し高いくらいですね。
そして、この5.74ドルが、カード決済のレートで円に換算される。その日の適用レートがなんと1ドル=169.687円!!しかしこの数字にも、実はカラクリがあります。ニュースで見る為替相場より高いのは、カード会社の海外事務手数料(だいたい1.6%前後)が、レートに溶け込んでいるからです。海外でカードを使うと、見えないところで少しずつ乗っかってくる。これも、改めて実感しました。
さて、日本のアメリカーノは、トールで570円くらい。同じものが、シアトルでは974円。約1.7倍です。
……と、ここまで真面目に計算しておいて、最後に間抜けなオチがあります。

受け取ったカップをよく見たら、「DECAF」の文字。そう、私のコーヒーは、なぜかカフェイン抜き(デカフェ)になっていたのです。なんちゃって英語での注文で、どこかで行き違ったのでしょう。しかも私、飲んでいる間、まったく気づきませんでした。普通に米国でスタバのコーヒーを飲んでいるだな…と思って飲んでいた(笑)。カフェインで目を覚ますつもりが、目の覚めない一杯に974円。デカフェとは、それほど自然な飲み物なのか?ただ自分がただ疲れていただけなのか?よく分かりませんが…。ちなみにカップに書かれた私の名前は「Jack」。間違えではなくよく使う私のWEBネーム「Jack HANOI」で名乗ったからです(笑)。
さて、お次はマクドナルド。
こちらは、アンカレッジ空港で見かけたもの。実は食べてはいないのですが、メニューボードを見上げて、思わず足が止まりました。
ビッグマックのセット、14.90ドル。ポテトとドリンクが付くとはいえ、日本円にすれば、ざっと2,500円前後。日本のビッグマックセットは770円ですから、3倍以上です。「あのビッグマックのセットが、2,500円…」。さすがの私も、これは注文する気が起きませんでした(笑)。
この物価の高さの正体は、円安だけではありません。本編でも書いた通り、あの現場では、時給17ドル、18ドルという人たちが働いている。人件費も、食材費も、何もかもが高い。それがそのまま、ハンバーガーの値段に乗ってくる。「アメリカは物価が高い」という言葉の中身を、私はようやく、腹の底で理解しました。
そして、このマクドナルドのメニューを眺めていて、もちろんあそこに目が行きます。
フィレオフィッシュ。
蒲鉾屋の私にとっては、いまさら説明するまでもない話なのですが、このフィレオフィッシュの白身、その正体はスケソウダラのフライです。そしてアメリカのフィレオフィッシュに使われるスケソウダラは、東ベーリング海とアリューシャン列島沖で獲れたもの。つまり、私がこの旅で、はるばる会いに行った、あのダッチハーバーの海の魚です。
知識としては、とうに知っていたことです。けれど、こうしてアラスカの地のマクドナルドで、そのメニューを実際に目にすると、感慨もひとしお。「やはり、ここでもお前だったか」と、旧知の相手に再会したような気持ちになりました。あの広いベーリング海で漁から加工までを見てきた、その同じ魚が、こんな身近なサンドイッチの中にもちゃんといる。産地の現場と、街のファストフード店が、一匹の魚で地続きにつながっている。そのことを、あらためて現地で確かめられたのは、私にとって、なかなか味わい深い時間でした。
ちなみに、日本のマクドナルドのフィレオフィッシュも、公式によれば主要原料はスケソウダラ。産地はアメリカ(ベーリング海)やロシア(オホーツク海)とされています。スケソウダラという魚が、いかに世界の食卓を静かに支えているか。その広がりに、あらためて感じ入ります。
もちろん、同じスケソウダラといっても、そこから何を、どう作るかは、まったく別の話です。フィレにすれば白身魚のフライになり、すり身にすれば、私たちの業界では蒲鉾やカニカマ、竹輪になる。同じ魚を預かりながら、それを日本の食文化として、蒲鉾という形にまで磨き上げていく。そこにこそ、私たち作り手の仕事があり、腕の見せどころがある。ベーリング海の恵みを、富山・魚津の蒲鉾へと知恵と工夫で付加価値を向上させる。その役目を担っているのだと思うと、状況は厳しいですが前を向いて頑張るしかない。
さて、物価の話に戻ると、せっかくなので、フィレオフィッシュ同士でも、値段を比べてみます。日本のフィレオフィッシュのセットは、630円ほど。かたやアメリカでは、およそ2,500円。約4倍です。ビッグマックよりも、さらに開きが大きい。
しかし現実として、魚そのものは、同じベーリング海のスケソウダラ。 元をたどれば同じ海の恵み。なのに、最終的な値段は4倍も違う。この差は、魚の価値の差ではありません。その国の人件費の差であり、物価の差であり、なんと言っても為替の差!円安!
コーヒー一杯、ハンバーガー一つ。たったそれだけのことで、私は本編の最終回に書いたあの言葉を、身をもって思い知らされました。もう、価値観だけを考えるときは円建てで物事を考える発想では、世界と微妙にズレている。それだけ円の価値が下落、もしくは日本の価値が下落しているのでしょうね。残念ですが。
番外編になってもなお、こうしてスケソウダラという一匹の魚でつながっていました。



