河内屋社長ブログ蒲鉾丹右衛門の徒然なるままに…

2026.09.03

アラスカ、ダッチハーバー番外編③〜「世界の変化から逃げるな」。新聞記事に、ドキッとした話。

  • twitter
  • LINEで送る

番外編①では空港での足止めを、②では現地の物価を、肩の力を抜いてブログを書きました。今回もその続きのようなものですが、少しだけ、私の頭の中の物思いにお付き合いください。堅い話に見えて、しょせんは一蒲鉾屋の雑感です。どうか気楽に読み流してください。

先日、日経のAnalysisのページで、大きな記事にふと目がとまりました。東京海洋大学の勝川俊雄准教授が書かれた一本です。見出しは、「世界の変化から逃げるな」。

専門家の論考ですから、私が要約するのもおこがましいのですが、大づかみに言えば、こういうお話でした。世界の漁業は、各国が資源管理へと舵を切ったことで、持続可能な方向へ歩んできた。漁獲できる量を定め、それを漁業者ごとにきちんと割り当てる。獲り放題の早い者勝ちをやめ、限りある資源を計画的に使い、その先で高付加価値な製品を作っていく。ところが日本は、その世界の潮流から目をそらし、対症療法を繰り返してきたのではないか…。おおよそ、そのような趣旨だったと受け取りました。

この記事を読みながら、私の頭の中では、つい先日まで自分がこの目で見てきた、あのベーリング海の光景が、次々と甦っていました。

というのも、この記事が「世界の潮流」として指し示しているものを、私は理屈より先に、ダッチハーバーの現場で、まるごと浴びてきたばかりだったからです。

本編でも書きました。アメリカのスケソウダラ漁は、漁獲枠がきっちり各業態に配分され、獲り放題の競争ではなく、腰を据えて製品を作れる仕組みが整っている。船には一隻ごとに枠があり、その範囲で計画的に漁をする。混獲をチェックする人が、州政府から賃金をもらって厳しく見張っている。過去には、トドを守るために漁獲枠が減らされたこともあった。そして、一匹の魚を、決して無駄にしない。すり身に、フィレに、魚粉に、魚油に。余すところなく使い切る。この地の水産という大きな柱を、末永く続けていきたい…その意志が、現場のそこかしこに、にじみ出ていました。

あれこそが、あの記事が言う「世界の変化」の、まさに現物だったのだろうと思います。だから、あの記事が、これほど胸に迫ってきたのでしょう。

ひるがえって、私たちアジアはどうか。

もちろん、私は学者でも政治家でも漁業従事者でもありません(単なる釣り人です笑)。政策の是非を語るような大それた立場ではなく、これはあくまで、原料の現場をちょっとかじった者の、勝手な物思いです。そのつもりで聞いてください。世界が資源管理へと大きく舵を切っていく中で、私たちアジアは日本も含め、そしてとりわけ、いまだ管理の仕組みが十分に整っていない国々ではその変化から、少し目をそらしてきたのではないか。そんな気が、どうしてもしてしまうのです。

本編でも触れました。とりわけ東南アジアなどの産地では禁漁期間はあるにしても、アラスカのような徹底した資源管理が、まだ確立されていない。あるだけ獲ってしまう。小さな魚まで獲ってしまう。それでは、資源はいずれ細っていってしまう。そのツケが今、原料全体の値上がりとなって、めぐりめぐって、私たちの手元にまで回ってきている…素人考えではありますが、そんなふうに感じております。

そして、私たちが足踏みしている間にも、世界のほうは、どんどん先へ進んでいたようです。

いま、世界中で、白身魚が注目を集めています。良質なタンパク源、いわば「フィッシュプロテイン」として、その価値が世界的に見直されている。健康志向の高まりとともに、かつては見向きもしなかった国々までもが、こぞって白身魚を求めるようになりました。結果として、限られた資源を、世界中で奪い合う時代が来てしまった。

さらに、もう一つ。世界の水産加工メーカーが、「冷凍すり身」という素材の、便利さと優秀さに気づいてしまったのです。かつて、すり身を使いこなすのは、ほとんど日本くらいのものでした。ところが今や、その扱いやすさ、応用の広さを知った世界中のメーカーが、すり身を求め始めている。ここでもまた、奪い合いです。

本編で書いた「買い負け」、ドルを持つ他国の買い手に、円安の日本が価格で負けてしまう…は、こうした変化が生んだ、現実の出来事なのだろうと思います。世界が資源の価値に気づき、奪い合いを始めた。その現実に、私たちはまだ、十分に向き合えていないのかもしれません。

思えば、今年のホルムズ海峡の危機も、あくまで”きっかけ”に過ぎなかったのでしょう。こうした原料をめぐる問題は、実はずっと以前から、水面下で静かに眠っていた。それが、ホルムズ海峡の一件で、燃料も、資材も、原料も、いっぺんに表へ噴き出してしまった。そんな気がしてなりません。おまけに、魚粉の一大産地であるペルーの海まで不漁に見舞われ、悪いタイミングがいくつも重なってしまった。まったく、間の悪いときには、悪いことが揃って起きるものです。

とはいえ、これは誰かを責めるための話ではありません。むしろ、私たち作り手自身が、まず胸に刻むべきことなのだと思っています。

私たちが扱うすり身の原料は、天然の魚です。海の恵みには、限りがある。この当たり前のことを、あらためて深く認識しなければならないのでしょう。獲れるから獲る、あるだけ使う、ではなく、限りある資源だと認識して、大切に使わせていただく。天然の魚を原料にする以上、それは、私たち水産に携わる者すべての日本も、アジアも、世界も含めた、すべての作り手の逃れられない宿題なのだと、一蒲鉾屋ながらに思うのです。

さて、ここで、消費者の皆様に、ひとつお願いがございます。

ご承知の通り、今月は、私どもの業界も、値上げをお願いせざるを得ない状況が続いております。原料も、資材も、燃料も、何もかもが上がる中で、心苦しくも、価格に反映させていただかざるを得ません。どうか、この背景を、深くご理解いただけましたら幸いです。

そのうえで、これだけは申し上げたいのです。蒲鉾やちくわといった練り製品は、決して、ただ安いだけの食べ物ではありません。限りある海の恵みを、日本人が長い歴史の中で磨き上げてきた、れっきとした「付加価値のある伝統食品」です。一匹の魚を、すり身という形を通じて、これほど美味しく、これほど多彩な商品に仕立てる。この技と文化は、世界へ誇れるものです。

だからこそ、私どもメーカーは、これからも、その価値に恥じない、本当に良い商品をお届けしていきたい。限りある資源を大切に使わせていただき、それを精いっぱいの付加価値ある商品へと変えていく。ベーリング海の作り手をはじめ天然の恵みと、富山・魚津の私たちが、同じ「良いものを大切に作る」心で繋がっている、その誇りだけは、どんなに時代が厳しくとも、手放したくない。

最後に、少しだけ、先の話も。

実は水産の世界では、天然魚の資源管理と並んで、もう一つの流れが育ってきています。養殖です。たとえば、パンガシウスという白身魚。養殖技術の進化とともに、世界の食卓で、静かに存在感を増しています。世界の食のトレンドの一つは、間違いなく養殖魚にある。しかしその話はまた、別の機会に。